資金繰り

アース製薬 拡大路線に隠された、いくつかの失敗




在宅勤務増加から、おうちを快適にする需要が増え絶好調とウワサの殺虫・防虫剤業界のアース製薬株式会社。2019年12月期は連結売上高189,527百万円です。

経営を俯瞰する アース製薬

2010~2019年12月期までの10年間の連結財務諸表を分析してみました。

ドリルダウンして経営を読む アース製薬

今回は親指標に3つの棒グラフを足しました。営業効率は売上高、生産効率は従業員数、資産効率は資産額です。増加トレンドか減少トレンドかが欲しい情報で、単位は気にしません。

こうして総合評価・親指標・棒グラフを並べてみると、相互の矛盾に気が付きます。勿論、納得する部分もあります。

素直に読めるのは、?売上高、従業員数の両方増加の中、従業員数の伸びが若干凸凹しているものの、両者バランスしているから生産効率は横ばい、?資産効率改善は売上高増加>資産増加で資産効率が改善している、等です。

疑問に残るのは、営業効率が青信号領域で、2018年12月期に僅かな当期損失以外赤字を出していないこと、資産の増加がそれほどでないのに、流動性、安全性が右肩さがりになるかです。

もっとわかりやすい表現をすれば、「儲かっているのに財務体質が悪化し続けるか。」です。

儲かっていれば、当期利益が増加し、貸借対照表の純資産・利益剰余金が増加し、純資産比率を改善させ、安全性は右肩上がりになる傾向になります。

儲かっていれば、営業キャッシュフローが入ってきて、現金預金等が増えますし、増収トレンドなら売上債権、棚卸資産が増加するので、流動資産が増加し流動性は右肩上がりの傾向になります。

素直に行けばそうなる筈なのにならない理由を財務諸表の中から探り当てましょう。

財務諸表(決算書)は企業の全ての活動を金銭の形に変えて、集計した計算書類です。100円のボールペンを買った情報まで数字という形で含まれる優れモノです。

疑問を解く痕跡が必ず存在します。

配当政策の変更がもたらしたもの アース製薬

毎期獲得した利益は貸借対照表の純資産・利益剰余金に積み上げられていきます。利益剰余金残高の推移を調べました。毎期積みあがる筈なのにそうなっていません。利益剰余金は減るのです。減る理由を調べ、推移をグラフ化しました。当期利益より配当の方が多いのが減る原因です。

連結ベースで40%以上の配当性向(配当額÷当期純利益 利益連動の配当)でしたが、徐々に儲からなくなり(営業効率悪化)、株主に安定して配当が難しくなってきました。そこで、2017年12月期以降、純資産配当率(DOE:Dividend on equity ratio年間の配当総額÷株主資本)4~5%に変更しました。その意思決定が上記グラフの数字の動きの原因です。

?当期利益以上の配当をして現金が減り、純資産が減るので流動性・安全性が悪化します。

成長資金は短期資金で調達 アース製薬

有価証券報告書には、「内部留保(=利益剰余金)で製品開発やM&A、海外進出に対する投資などに活用していく。」とありますが、内部留保が減っており、記載は事実に反します。

それでは、製品開発、M&A、海外進出の資金はどこから捻出しているのでしょうか。

2011年と2019年12月期の貸借対照表(BS)バランスを調べました(下図)。面積が金額を示しています。流動負債、固定負債、純資産は、資金調達を示します。純資産が減った分、流動負債を増加してカバーしています。

流動負債の増加は短期借入金と1年以内返済予定長期借入金で2010年461百万円から2019年17,166百万円と37倍になっています。

その資金が固定資産の増加に使われています。短期資金で長期に固定化される固定資産を持ちました。

?流動負債が激増するので流動性悪化、純資産が減り固定資産が増加し安全性悪化。

 

以上??が、利益が出ているのに財務体質(流動性・安全性)が悪化する原因といえます。

まとめ

アース製薬?は攻めに強い会社です。同じ程度に数字に神経を払い、守りを固めることで、もっと成長します。財務体質を軽視する会社の綻びは1つではありません。23つと重なって攻めの長所を打ち消します。

貴方の会社の配当政策、どの部署が、何を根拠に決めていますか。

編集後記 DOEは純資産当期利益率が高い会社でなければ採用をお勧めできません。株主に安定配当しても、会社の成長資金を借金頼みにしては長期的に安定配当できなくなるのです。(#^.^#) 文責JY

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このコラムを、SPLENDID21NEWS第180号 【2020年11月15日発行】として、A3用紙でご覧になりたい方は下記をクリックしてください。

SPLENDID21NEWS第180号アース製薬

 


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